海の中の熱帯雨林とも呼ばれるサンゴ礁。その世界の浅いサンゴ礁のうち、なんと96%が「深刻な危機(絶滅寸前)」にある――。2026年10月22日、国際自然保護連合(IUCN)がこんな衝撃的な評価を発表しました。
IUCNといえば、絶滅のおそれがある生きものを一覧にした「レッドリスト」で有名です。今回はその「生態系版」で、サンゴという種ではなく、サンゴ礁という生態系まるごとの危険度を、世界規模で初めて評価しました。何が分かったのか、日本の海は大丈夫なのか、くわしく見ていきます。
IUCNが初の「サンゴ礁生態系レッドリスト」を公表
IUCNの発表によると、評価の対象は世界80以上の国と地域にある127のサンゴ礁生態系です。ここでいう生態系とは、海域ごとに区切った「エコリージョン(生態区)」のこと。対象は日光が届く浅い海のサンゴ礁に限られ、深い海のサンゴ礁や冷たい海のサンゴは含まれていません。評価には10の地域チーム、250人以上の専門家が参加し、IUCN、メルボルン大学、ケニアの研究機関CORDIO東アフリカなどがとりまとめました。
結果は次のとおりです。
- 127のうち122(96%)が「深刻な危機(CR)」。評価したサンゴ礁の面積の99.8%にあたる
- 1つはすでに「崩壊」。南米エクアドル沖の西ガラパゴス諸島のサンゴ礁で、1982〜83年の強いエルニーニョ現象のあとに失われた
- 残る4つはデータ不足で判定できず
AP通信によると、評価対象のサンゴ礁は合わせて約18万8000平方キロメートル。オーストラリアのグレートバリアリーフ、東南アジアの「コーラル・トライアングル(サンゴの三角地帯)」、カリブ海のメソアメリカ堡礁、紅海のサンゴ礁といった、世界的に有名なサンゴ礁もすべて「深刻な危機」とされました。この評価は、アルバニアで開かれている国連の生物多様性関連の会議に合わせて発表されています。
「過去50年」と「これからの50年」で見ると
評価の中身を見ると、ポイントは「将来の熱」です。過去50年の変化だけで判定すると、危機にある生態系は116(91%)で、そのうち「深刻な危機」は30(24%)でした。ところが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の中程度の温暖化シナリオ(SSP2-4.5)で今後50年の熱ストレスを加えると、「深刻な危機」が一気に96%まで増えます。
IUCNは、いちばんの脅威を海洋熱波(海水温が異常に高い状態が続く現象)だとしています。ほかにも、63%の生態系でサンゴ・海藻・魚のバランスが崩れていること、その背景にブダイやハタの獲りすぎ、汚染や土砂の流入があることも指摘されました。
ただしIUCNは「深刻な危機は、崩壊したという意味ではない」とも強調しています。評価の科学責任者ミシャル・グドカ氏は「警鐘ではあっても、絶望する理由ではない」と述べています。
独自リサーチ:1週間前には「サンゴの種の44%」も危機と判明
今回の発表は単独のニュースではありません。そのちょうど1週間前の10月15日、同じIUCNの専門家グループが、科学誌『Nature』にサンゴの「種」の評価を発表していました。サンゴ礁をつくる造礁サンゴ774種を調べたところ、340種(約44%)が絶滅の危険が高いと判定されたのです。内訳は「深刻な危機」33種、「危機」251種、「危急」56種。2008年の前回評価では約3分の1だったので、状況は悪化しています。
さらに気になるのは、どちらの評価も2023〜2025年の記録的な白化を十分に反映していない点です。米国海洋大気庁(NOAA)によると、2023年初めから2025年半ばまで続いた「第4次世界的白化現象」では、世界のサンゴ礁の84%が白化を起こすレベルの熱ストレスにさらされ、少なくとも83の国と地域で大規模な白化が確認されました。世界的な白化は1998年、2010年、2014〜2017年に続く4回目です。種の評価の著者たちも、使ったデータはこの白化より前のもので、実際の危険度はさらに高いだろうと述べています。
「白化」とは、サンゴの体内にすむ褐虫藻(かっちゅうそう)という小さな藻が、高水温のストレスで抜け出してしまう現象です。サンゴは栄養の多くをこの藻からもらっているため、白化が長く続くと飢えて死んでしまいます。
日本への影響:沖縄も串本も、すでに白化を経験
日本のサンゴ礁も無関係ではありません。今回の評価でIUCNが「東アジア」とした地域(25の生態区)では、将来の熱ストレスを含めると25すべてが「深刻な危機」とされました。日本の海域が個別にどう評価されたかは、本記事の執筆時点では確認できていませんが、日本の海で起きていることを見ると、決して他人事ではありません。
国内最大のサンゴ礁、沖縄県の石西礁湖(せきせいしょうこ)では、2016年の大規模白化で最終的に約7割のサンゴが死にました(琉球新報、環境省の調査より)。その後ゆっくり回復していた群落も、2022年に再び白化に見舞われています。
さらに環境省の「モニタリングサイト1000」の2024年度速報では、奄美大島周辺で大規模な白化が起き、浅瀬では回復できずに死んだ群体があったこと、和歌山県の串本周辺では8〜9月の平均水温が過去最高となり、場所によっては90%が白化した地点もあったことが報告されています。本州のサンゴも高水温の影響を受けているのです。
サンゴ礁は海の生きものの約4分の1を支えるとされ、漁業や観光、そして波から海岸を守る「天然の防波堤」の役割もあります。沖縄の観光やダイビング、島の暮らしに直結する問題だといえます。
意見:数字の大きさより「時間を稼ぐ」発想が大事
「96%が深刻な危機」という数字は、正直にいって胸が苦しくなります。ただ、私はこの評価を「もう手遅れ」というメッセージとして受け取るべきではないと考えます。理由は2つあります。
1つ目は、評価の大部分が「これから50年の熱」によるものだという点です。過去50年の変化だけなら「深刻な危機」は24%でした。つまり、今後の温暖化をどこまで抑えられるかで、未来はまだ変わる余地があります。2つ目は、IUCN自身が、獲りすぎ・汚染・沿岸開発といった地域で減らせる脅威を挙げている点です。石西礁湖でも、オニヒトデの駆除や赤土の流入を減らす取り組みが続けられてきました。地球規模の温暖化対策と、地元でできる対策で「サンゴが耐える時間を稼ぐ」ことが現実的な道だと思います。
一方で懸念もあります。熱に強いサンゴを育てて移植する研究も進んでいますが、海全体の広さに比べれば規模はまだ小さく、温暖化が続けば追いつかない可能性があります。今後は、2023〜2025年の白化を反映した次の評価で、数字がさらに厳しくなることも覚悟しておく必要がありそうです。
まとめ
- IUCNが世界初の「サンゴ礁生態系レッドリスト」を発表。127の生態系のうち122(96%)が「深刻な危機」、1つは崩壊
- 最大の脅威は海洋熱波。将来50年の熱ストレスを加えると危機の度合いが一気に高まる
- 1週間前には造礁サンゴの種の約44%も危機と判明。どちらも2023〜2025年の大規模白化は十分に反映されていない
- 日本でも石西礁湖、奄美、串本などで白化が起きており、観光や漁業、防災にも関わる問題
サンゴ礁の未来は、まだ決まったわけではありません。次に海へ行くとき、そこにあるサンゴの色を少し気にかけてみてはいかがでしょうか。
【出典・参考】
https://iucn.org/story/202610/red-list-coral-reef-ecosystems
https://abcnews.com/Technology/wireStory/coral-reef-ecosystems-face-risk-collapse-50-years-137472877
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/15649
https://theprint.in/science/44-of-reef-building-coral-species-face-extinction-risk-finds-iucn/3076831
https://www.nesdis.noaa.gov/news/worlds-fourth-mass-coral-bleaching-event-likely-ended-2025
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1605084.html
https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/ins/conf/R6/mat01-3.pdf
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