「8時59分60秒」という時刻を見たことはありますか。ふだんの時計には存在しないこの1秒は、2017年の元日、日本の標準時にたしかに挿入されました。じつは、こうした「うるう秒」は1972年から数年おきに足されてきました。ところが2026年10月、この仕組みをやめることが国際会議で正式に決まりました。地球と時計の“ズレ”をどう扱うのか、身近な暮らしへの影響とあわせて見ていきます。
ニュース本体:2027年5月20日から「途切れないUTC」へ
決定したのは、メートル法などの国際的な単位を決める「国際度量衡総会(CGPM)」です。国際度量衡局(BIPM)によると、第28回総会は2026年10月13日から15日まで、フランスのベルサイユで開かれました。
このとき採択された「決議5」は、世界の時刻の基準である「協定世界時(UTC)」について、次のように定めています。まず、うるう秒を入れない「連続したUTC」を2027年5月20日から始めること。そして、地球の自転をもとにした時刻「UT1」とUTCの差の上限を3,600秒、つまり1時間まで広げることです。決議は、これによって「数世紀にわたってUTCの連続性が保たれる」としています。
UTCは、原子時計がきざむとても正確な時刻をもとにしています。一方、UT1は地球が実際に1回転する動きから決まる、いわば「天体の時計」です。これまでは、この2つの差が大きくなりすぎないように、ときどきUTCに1秒を足して調整してきました。今回の決定で、その差がもっと大きくなるまで待てるようになったため、うるう秒は事実上、役目を終えることになります。
じつは、この方向性は前回、2022年の第27回総会ですでに決まっていました。そのときの決議では「2035年かそれ以前に、差の上限を引き上げる」とされていました。今回は、その具体的な開始日と上限の値が決まったことになります。
同じ総会では、ほかにも時間にかかわる決議が採択されました。「決議4」は、秒の定義そのものを新しくするための案を、2030年の第29回総会に出すよう求めています。また「決議6」は、月で使う時刻の基準と、そのUTCとの結びつきについて扱っています。人が月で活動する時代を見すえた動きといえます。
独自リサーチ:なぜ「1秒」がずれるのか
そもそも、なぜ時計と地球がずれるのでしょうか。原子時計は、原子が出す光(電磁波)の振動をもとに1秒を決めているため、ほとんど狂いません。ところが地球の自転は、潮の満ち引きによるブレーキや、地球内部や大気の動きなどの影響で、速くなったり遅くなったりしています。そのため、原子時計どおりに時を進めると、太陽の動きから決まる時刻とのあいだに少しずつ差がたまっていくのです。
J-CASTの2016年の記事によると、うるう秒は1972年に始まり、2017年1月1日の挿入が27回目でした。総務省の案内によれば、このとき日本では「午前8時59分59秒」と「午前9時00分00秒」のあいだに「8時59分60秒」が入りました。世界ではUTCの12月31日の最後に1秒を足しますが、日本時間はUTCより9時間進んでいるため、元日の朝9時前になるのです。日本の標準時を作って配っている情報通信研究機構(NICT)が、この挿入を行いました。結果として、この2017年の1秒が「最後のうるう秒」になりました。
うるう秒が嫌われてきたいちばんの理由は、コンピューターのトラブルです。イギリスのIT専門メディア「The Register」によると、2012年6月30日(UTC)のうるう秒では、Linuxという基本ソフトの不具合が原因で、航空会社の予約システム「Altea」が約1時間止まりました。オーストラリアのカンタス航空などでは、職員が手作業で搭乗手続きをする事態になりました。RedditやLinkedInなどのウェブサービスでも障害が報告されています。日本でも、このときSNSのmixiで大きな障害が起きたと報じられました。
こうした失敗から、大手IT企業は自衛策をとってきました。同じ記事によると、Googleは自社のサーバーの時計を、うるう秒の前に少しずつ遅らせて、1秒を「なめらかに」吸収する方法をとっていました。逆にいえば、正式なルールのほうが現場の実情に合わなくなっていたのです。
もう1つ見のがせないのが「マイナスのうるう秒」の心配です。最近は地球の自転がやや速い傾向にあり、決議5は、2025年3月の専門家の会合で「2035年までに負のうるう秒が必要になる確率は30%」と見積もられたことにふれています。1秒を「足す」のではなく「抜く」調整は、これまで一度も行われたことがありません。準備のないシステムでどんな問題が起きるか分からないことも、今回の決定を急がせた背景にあると考えられます。
日本への影響:電波時計とITの現場はどう変わる?
私たちの暮らしでいちばん身近なのは、電波時計やスマートフォンの時計です。これらは、NICTが配る日本標準時やインターネット上の時刻サーバーに合わせて動いています。うるう秒がなくなれば、「8時59分60秒」のような特別な時刻を扱う必要がなくなり、時刻の仕組みはより単純になります。
とくにほっとするのは、ITの現場で働く人たちかもしれません。J-CASTは2016年、元日のうるう秒への対応のため「年末年始の休みがなくなった」と嘆くエンジニアの声を紹介していました。NICTの担当者も同じ記事で、うるう秒によって複数のシステムのあいだで時刻が食いちがうと、障害やトラブルの原因になると説明しています。日本では、うるう秒が元日の朝や7月1日の朝に重なるため、銀行や交通、通信などの現場で事前の点検が必要でした。こうした負担は、今後はなくなっていくと考えられます。
一方で、地球の実際の向きを正確に知る必要がある分野、たとえば天文観測や人工衛星の運用などでは、これまでどおり、UT1とUTCの差を別に把握して使うことになると考えられます。差の上限が1時間に広がるということは、その差がこれまでより大きくなりうるということでもあるからです。
意見:「太陽」より「原子」を選んだ、合理的な決断
私は、今回の決定は合理的だと考えます。理由は2つあります。1つは、うるう秒が「いつ来るか」を長期的に予測できず、そのたびに世界中のシステムが危険にさらされてきたことです。もう1つは、1秒の差が日常生活にほとんど影響しないことです。太陽が南中する時刻は、そもそも住んでいる場所の経度によって何十分もずれています。数秒から数十秒の差を、わざわざ時計を止めて合わせる必要性は低いといえるでしょう。
ただし、心配な点もあります。差の上限は1時間ですから、いつかは「うるう時(1時間の調整)」のような大きな調整が必要になるかもしれません。Universe Todayの記事も、それは数世紀先、あるいは1000〜2000年先になるかもしれないと書いています。遠い未来の世代に問題を先送りしたともいえます。それでも、今の技術で確実にトラブルを減らせるほうを選んだのは、現実的な判断だと私は予想します。2030年に予定されている秒の新しい定義の議論にも注目したいところです。
まとめ
2026年10月の国際度量衡総会で、協定世界時に1秒を足す「うるう秒」を、2027年5月20日からやめることが決まりました。地球の自転による時刻との差は最大1時間まで認められ、2017年元日の「8時59分60秒」が最後のうるう秒になります。システム障害の心配が減る一方、遠い将来の大きな調整という宿題も残りました。「時間」とは何かを、あらためて考えさせられるニュースです。
【出典・参考】
https://www.bipm.org/en/cgpm-2026/
https://www.bipm.org/en/cgpm-2026/resolution-5
https://www.bipm.org/en/cgpm-2026/resolution-4
https://www.universetoday.com/articles/the-leap-second-is-history-long-live-the-leap-hour
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_kokusai/leap-info2015/index.html
https://www.j-cast.com/2016/11/06282669.html
https://www.theregister.com/2012/07/02/leap_second_crashes_airlines/
この記事へのコメントはまだありません
感想や質問を送る