体長60cmを超える、史上最大のキツツキ「テイオウキツツキ」。1956年を最後に生きた姿が確認されておらず、絶滅したと考えられています。そんな幻の鳥が、パソコンの中でよみがえりました。博物館に残る1羽の標本をもとに、木を登り、幹をたたき、羽根を1枚ずつ動かして飛ぶ「デジタル標本」が作られたのです。
研究は、米国マサチューセッツ大学アマースト校のジョシュア・メディナ氏らのチームが、学術誌『ナチュラル・ヒストリー・コレクションズ・アンド・ミュージオミクス(自然史コレクションと博物館ゲノム学)』に2026年9月25日付で発表したもので、10月22日に海外の科学ニュースサイトで紹介され話題になっています。
ニュース本体:288枚の写真と70年前の映像から再現
もとになったのは、米国オクシデンタル大学のムーア動物学研究所に保管されているメスの標本です。1938年3月31日にメキシコのドゥランゴ州で採集されたもので、科学のために集められた最後の個体のひとつとされています。
チームはこの標本を全方向から288枚撮影し、写真から立体の形を組み立てる「フォトグラメトリー」という方法で3Dモデルを作りました。頭と尾は別に撮影し、実物との形の誤差は1mm以内に収まっています。大きな羽根は、標本の写真や近い仲間のエボシクマゲラの羽根の画像、イラストなどを参考に1枚ずつ作られました。初列風切(しょれつかざきり:翼の先の大きな羽根)10枚、次列風切10枚、尾羽12枚を、それぞれ別々に動かせます。
骨格はエボシクマゲラをもとに、テイオウキツツキの体の比率に合わせて作りました。はばたきのタイミングは、1956年に撮影された映像をもとに、ほかの大型のキツツキのデータで調整しています。こうして、木の幹を登る、くちばしで幹をたたく、飛ぶという3つの動きを再現しました。
制作は、ムーア動物学研究所とマサチューセッツ大学の「デジタル・ライフ・プロジェクト」の共同作業です。無料の3Dソフト「Blender(ブレンダー)」の中で、作った体に骨格を組み込み、動きをつけています。飛んでいる姿と木にとまった姿のモデルなどが公開されていて、創作や非営利の目的なら無料で使えます。画面の中で羽根の1枚1枚が折りたたまれたり広がったりする様子は、まさに「動く図鑑」です。
モデルからは、肩から翼の先までの長さ約41.1cm、くちばしの長さ約8cm、大きな羽根を除いた体の体積約1715立方cmといった数字も得られました。体積は体重やエネルギーの使い方を推定する手がかりになります。モデルは誰でも無料でダウンロードでき、羽根の形を変えながら飛ぶロボットの設計にも役立つ可能性があるといいます。
ただし、チームも限界を認めています。モデルはメス1羽だけがもとで、個体による違いは分かりません。筋肉などの柔らかい部分や体重、えさの取り方は直接測れず、生きている仲間から推定した部分があります。飛ぶ姿の映像もわずか数秒分しかありません。
独自リサーチ:85秒のカラー映像が残した「最後の姿」
今回のモデルづくりを支えた1956年の映像には、ドラマのような背景があります。米コーネル大学の発表によると、撮影したのは米国ペンシルベニア州の歯科医ウィリアム・ライン氏です。メキシコ・ドゥランゴ州の山中で、ラバの背中から手持ちのカメラで16ミリフィルムに収めました。長さは85秒、カラーの映像です。ライン氏は1999年に亡くなり、映像はその後、同大学鳥類学研究所のマルティアン・ラメルティンク氏らによって分析され、2011年に学術誌『ジ・アウク』に発表されました。
この映像は、野生のテイオウキツツキが確認された最後の記録とされています。2010年3月には撮影場所を探す調査も行われ、場所は特定されたものの、鳥が生き残っている証拠は見つかりませんでした。住民からも1950年代以降は目撃されていないといいます。減少の原因は、すみかだった古いマツの森の伐採と、食用や民間薬、好奇心による狩猟でした。ライン氏は、その姿を「大きな七面鳥が目の前を飛んでいくようだった」と表現しています。
大きさを身近な鳥と比べてみましょう。日本で最大のキツツキは、北海道や東北の森にすむクマゲラで、全長は45cmほどです。テイオウキツツキはそれより一回り以上大きく、カラスほどの体で巨大な木の幹をたたいていたことになります。それほど大きな鳥でも、すみかの森が失われると、姿を消してしまったのです。
日本への影響:日本にも「絶滅したキツツキ」がいる
実は日本にも、すでに絶滅したキツツキがいます。かつて長崎県の対馬にすんでいた「キタタキ」で、環境省と長崎県のレッドリストでは「絶滅(EX)」に分類されています。絶滅した生き物の姿を今に伝えるのは、博物館に残された標本だけです。
標本は傷みやすく、貴重なものほど気軽に触ったり貸し出したりできません。今回のように高精度の3Dデータにすれば、世界中の研究者や子どもたちが、形を測ったり動かしたりして学べるようになります。日本の博物館に眠る絶滅種や希少種の標本も、同じ方法で「デジタル標本」にできれば、研究にも教育にも新しい使い道が広がるはずです。
意見:「よみがえった」に見えるからこそ、正直な説明が大切
私は、この研究を「失われた生き物の情報を、未来へ残す新しい方法」として高く評価します。とくに、作り方やデータの出どころ、分からない部分まで記録し、誰でも使える形で公開したことに価値があります。見た目の美しさを競うCGではなく、検証できる科学の資料として作られている点が大切です。
一方で心配もあります。動く姿があまりにリアルだと、「絶滅した鳥がよみがえった」と受け取られかねません。骨格や動きの一部は近い仲間からの推定であり、本物そのものではないことを、見せる側がきちんと伝える必要があります。また、デジタルで残せるからといって、絶滅の重さが軽くなるわけではありません。テイオウキツツキを失った原因は森の伐採と狩猟でした。今生きている生き物を守ることが何より優先だと思います。
まとめ
史上最大のキツツキ、テイオウキツツキが、1938年の標本と1956年の85秒の映像をもとに、羽根まで動く3Dのデジタル標本として再現されました。形の誤差は1mm以内で、誰でも無料で使えます。推定に頼る部分はあるものの、絶滅した生き物の姿を研究と教育に生かす新しい試みです。日本のキタタキのように、博物館に眠る標本の価値を見直すきっかけにもなりそうです。
わけあって絶滅しました。(丸山貴史 著・今泉忠明 監修)
絶滅した生き物たちが「なぜ絶滅したのか」をユーモアたっぷりに紹介する図鑑です。テイオウキツツキのように、人間の活動が絶滅に関わった例を考えるきっかけになります。
鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。(川上和人)
鳥類学者が研究の現場をおもしろく語るエッセイです。標本や野外調査など、鳥の研究がどのように進められているのかを楽しく知ることができます。
【出典・参考】
https://www.earth.com/animals/the-biggest-woodpecker-ever-recorded-is-probably-extinct-but-this-3d-digital-copy-can-climb-trees-and-fly/
https://doi.org/10.3897/nhcm.3.204314
https://moorelab.oxy.edu/node/37556
https://news.cornell.edu/node/270868
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2022/03/1648644060.pdf
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