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「終末の氷河」の海面上昇、予測の2倍に 海水が氷の下へ

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南極にある、日本の面積の約半分ほどもある巨大な氷河が、これまでの予測よりも速く海へ流れ出すかもしれない――そんな研究結果が発表されました。

「終末の氷河(ドゥームズデイ・グレイシャー)」というあだ名を持つ、西南極のスウェイツ氷河です。アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校(UCアーバイン)とNASAジェット推進研究所(JPL)の研究チームが、学術誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に論文を発表し、2026年10月15日に米CNNなどが報じました。

ニュース本体:2100年までの海面上昇への影響が「約2倍」に

スウェイツ氷河は、幅が世界でいちばん広い氷河で、面積はアメリカのフロリダ州ほど(約7万4000平方マイル)あります。現在、世界の海面上昇のおよそ4%を、この氷河1つが生み出しているとされます。

研究を率いたのは、当時UCアーバインの研究者で、現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に所属するマッティア・ポイネッリ氏です。氷河研究で知られるエリック・リニョ教授も加わりました。

カギになったのは「接地帯」です。氷河は陸の上をすべり、海に出たところで浮き上がります。この境目は、これまでのコンピューターの予測(モデル)では1本の「線」として固定して扱われることが多くありました。ところが衛星の観測では、境目は数キロメートルの幅を持つ「帯」になっていて、潮の満ち引きにあわせて海水が氷の下へ出入りしていることが分かっています。そのたびに温かい海水が氷の奥まで入りこみ、下から溶かしてしまうのです。

チームはこの「接地帯」を取り入れた新しいモデルをつくり、衛星レーダーの観測データで調整しました。1990年代から現在までを再現すると、新しいモデルは従来のモデルの約4倍の変化をとらえたといいます。そのうえで将来を計算したところ、スウェイツ氷河は2100年までに最大で約3センチメートル(30ミリ)、世界の海面を押し上げる可能性があると分かりました。これは従来の見積もりの約2倍で、しかも「これ以上温暖化が進まなくても」という条件での数字です。

さらに、氷河は今、海底の2つの「尾根」に引っかかるようにして支えられています。手前の「ムジノー尾根」から氷河が外れる確率は、今世紀末までに60%と計算されました。外れてしまうと、氷河は奥へ向かって下り坂になった海底の上を、次の尾根まで一気に後退するおそれがあります。

独自リサーチ:2年前に見えていた「氷の下の海水」

実は、この研究には前段があります。同じUCアーバインのリニョ教授らは2024年5月、米国科学アカデミー紀要(PNAS)で、スウェイツ氷河の下に海水が何キロメートルも入りこんでいることを報告していました。フィンランドの民間衛星「ICEYE(アイサイ)」のレーダーで、2023年3月から6月にかけてほぼ毎日観測した結果です。リニョ教授は当時、潮の力で押し込まれた海水が「800メートル以上の厚さの氷の柱を持ち上げる」と説明していました。今回の研究は、この観測結果を将来予測のモデルに組み込んだものといえます。

スウェイツ氷河がこれほど注目されるのは、壊れたときの影響が大きいからです。報道によると、氷河がすべて崩れると世界の海面は約65センチメートル上がり、さらにこの氷河が背後にある西南極の氷床をせき止める役割をしているため、連鎖すると合計で約3メートル上昇する可能性もあるとされます。

そのため、イギリスの自然環境研究会議(NERC)とアメリカ国立科学財団(NSF)は2018年、「国際スウェイツ氷河共同研究(ITGC)」を立ち上げ、約2000万ポンドを8つの大型研究プロジェクトなどに投じました。南極でもっとも行きにくい場所の1つに、各国の研究者が挑み続けています。

一方で、慎重な意見もあります。研究に関わっていないイギリス南極観測局のロバート・ラーター氏は、氷の下の環境は論文で描かれたものより複雑で、まだ分かっていないことが多いと指摘しています。実際、今回の予測は氷河の下で直接確かめられたものではなく、チームは2028年に接地帯へ観測機器を設置して、海水の流れを測る計画です。逆に、コロラド大学のテッド・スキャンボス氏は、この研究がスウェイツ氷河の海面上昇予測を大きく変える「ゲームチェンジャー」になりうると評価しています。

日本への影響:3センチは「日本の海面上昇の約9年分」

「3センチ」と聞くと小さく感じるかもしれません。しかし、これは氷河1つだけの上乗せ分です。気象庁によると、地盤の動きを補正した日本沿岸13地点の平均海面水位は、2004年から2025年にかけて1年あたり約3.5ミリ上がっています。単純に計算すると、スウェイツ氷河だけで、今の日本の海面上昇の約9年分が加わることになります。

海面上昇は、日本の砂浜にとって深刻な問題です。国立環境研究所の気候変動適応センターが紹介している2017年発表の研究では、21世紀末(2081〜2100年)までに日本の砂浜は、温暖化を強く抑えた場合(RCP2.6)でも62%、中くらいの場合(RCP4.5)では71%減ると予測されています。海水浴場や、ウミガメが卵を産む浜も、無関係ではありません。

また、海面が高くなるほど、台風のときの高潮や高波の被害が大きくなりやすくなります。南極の遠い氷河の話は、海に囲まれた日本の防災や街づくりにも直結しているのです。

意見:「予測の上ぶれ」を前提に備えるべき

今回の研究で重く受け止めたいのは、「これ以上温暖化しなくても」予測が2倍になったという点です。リニョ教授も、温室効果ガスを今すぐ減らすべきだとしつつ、過去の影響で、ある程度の海面上昇はすでに避けられないと述べています。つまり、排出を減らす「緩和」と同時に、海面上昇に備える「適応」も急ぐ必要があります。

一方で、これは1つのモデルによる予測で、直接の観測で確かめられたわけではありません。「60%」という確率も計算上のものです。不安をあおるのではなく、2028年の観測など新しいデータで予測がどう変わるのかを、冷静に追いかけることが大切だと考えます。

それでも、これまで多くの予測が実際の氷の減り方の速さに追いつけなかったと、研究チームは指摘しています。防波堤や海岸の計画は何十年も使うものです。日本の自治体や国も、「予測は上ぶれしうる」という前提で、余裕をもった備えを考えておくべきではないでしょうか。

まとめ

「終末の氷河」スウェイツ氷河は、氷の下に入りこむ温かい海水によって、これまでの予測より速く溶ける可能性が示されました。2100年までの海面上昇への影響は最大約3センチと、従来の約2倍です。まだ確かめるべき点は残りますが、海に囲まれた日本にとって、南極の変化は決して遠い話ではありません。

南極の氷に何が起きているか(杉山慎著/中公新書)

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【出典・参考】
https://www.cp24.com/news/world/2026/10/15/scientists-find-doomsday-glacier-is-melting-more-aggressively-than-thought-with-big-impacts-for-sea-level-rise/
https://interestingengineering.com/science/thwaites-glacier-sea-level-rise-model
https://ess.uci.edu/news/1371
https://www.cam.ac.uk/research/news/uk-and-us-join-forces-to-understand-how-quickly-a-massive-antarctic-glacier-could-collapse
https://ds.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_1/sl_trend/sl_trend.html
https://adaptation-platform.nies.go.jp/local/infographic/pdf/4_coasterosion.pdf

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