もし、あなたが庭づくりのために買ってきた石を洗っていたら、その中から2億4000万年前の巨大な生き物が現れたら——。まるで物語のような出来事が、オーストラリアで本当に起こりました。今回は、ありふれた庭の壁づくりが世界的な大発見につながった、新種両生類「アレナエルペトン」の物語をご紹介します。
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庭の壁にするはずだった石から、骨が現れた
物語の舞台はオーストラリアのニューサウスウェールズ州、時は1996年10月にさかのぼります。引退した養鶏農家の男性が、自宅の庭に擁壁(ようへき)——土を支えるための石の壁——を作ろうとしました。彼が近くの採石場から購入したのは、重さおよそ1450kgという、乗用車一台分にも相当する大きな砂岩のかたまりでした。
作業を担当した造園業者が、運び込んだ石を水で洗い流していたところ、表面の泥の下から思いがけないものが姿を現します。それは、何かの動物の骨のような模様でした。ただの建材だと思われていた石の中に、太古の生き物が閉じ込められていたのです。
この化石はやがてシドニーのオーストラリア博物館へ寄贈され、長い研究期間を経て、発見から四半世紀以上が過ぎた2023年、ニューサウスウェールズ大学とオーストラリア博物館の研究チームによって、新しい属・新しい種として正式に記載されました。
「仰向けで砂を這う者」という名前の意味
つけられた学名はアレナエルペトン・スピナトゥス(Arenaerpeton supinatus)。ラテン語で「アレナ=砂」「エルペトン=這うもの」「スピナトゥス=仰向け」を意味し、つなげると「仰向けで砂を這う者」となります。砂岩の中から、あおむけの姿勢で見つかったことにちなんだ名前です。
分類でいうと、アレナエルペトンは分椎目(ぶんついもく/テムノスポンディル)という、すでに絶滅した両生類グループの仲間です。見た目はサンショウウオに似ており、とくに頭の形は、現在の中国に生きる世界最大級の両生類「中国オオサンショウウオ」にそっくりだといいます。実はアレナエルペトンは、この中国オオサンショウウオのはるか遠い祖先にあたると考えられています。
サンショウウオというより、ずんぐりしたハンター
ただし、現代のサンショウウオから想像するイメージとは少し違います。アレナエルペトンは頭から尻尾までおよそ1.2メートル。骨格はがっしりとして重量感があり、口の天井には牙のような一対の鋭い歯が生えていました。同じ時代に生きていた近縁の生き物の多くが小型だったのに対し、これだけ大型だった点も注目されています。
なぜこの発見はそんなにすごいのか
理由は大きく二つあります。一つめは、その保存状態の良さです。化石は骨がバラバラで見つかることがほとんどで、頭と体がつながった全身骨格が出るだけでも珍しいこと。ところがアレナエルペトンは、皮膚の輪郭、つまり体の柔らかい部分の形まで岩に残っていました。骨だけでなく、肉づきや体つきまで推測できる、古生物学では極めて貴重な標本なのです。
二つめは、この新種を発表した研究者自身の物語です。記載をおこなった古生物学者ラクラン・ハート氏は、この化石が見つかってまもない頃、まだ12歳の少年でした。化石に強く心を動かされた少年は、いつか自分の手で研究したいと夢を抱きます。そして大人になって本物の古生物学者となり、子どもの頃に憧れたまさにその化石を、自らの手で新種として世界に発表したのです。
一つの化石が、一人の人生をまるごと決めた。科学の大発見の入り口は、こんなにも身近で人間くさいものでもある。
大量絶滅を2度くぐり抜けた、タフな一族
アレナエルペトンが生きていたのは、恐竜が登場するよりも前のおよそ2億4000万年前。彼らが属する分椎目は、地球史に5回あったとされる大量絶滅のうち、2回をくぐり抜けて生き延びた驚異のサバイバーでした。
- およそ2億5000万年前の史上最大の大絶滅(通称「大いなる死」)では、地球上の生き物の8割以上が姿を消したとされる
- その地獄のような時代を生き抜いた一族の生き残りが、アレナエルペトン
- この仲間の最後の生き残りは、豪ビクトリア州で見つかった体長最大5メートルの「クーラスクス」。アレナエルペトンの1億2000万年も後の時代まで生きていた
日本のオオサンショウウオにもつながる物語
日本にも、国の特別天然記念物に指定されている「オオサンショウウオ」がいます。清流にすむ大きな両生類ですが、アレナエルペトンの姿を知ると、私たちが川で見かけるあの生き物も、2億年を超える長い時間の先にいる存在なのだと実感できます。
そして何より、この発見が教えてくれるのは、太古のロマンは特別な場所だけにあるのではない、ということ。庭に積んだ石や家の建材、ふだん何気なく通り過ぎる石ころの中にも、何億年も前の生き物が眠っているかもしれません。次に大きな石を見かけたら、その中の太古の世界に少しだけ思いをはせてみてください。
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