ゴミ捨て場で見かけたり、電線にとまっていたり、公園にいけば必ずいる、あの真っ黒な鳥——カラス。考えてみると、スズメは茶色、ハトはグレー、メジロは黄緑と、鳥の世界はこんなに色とりどりなのに、カラスだけは頭からつま先まで真っ黒です。「カラスはなぜ、あれほど黒いのか」。子どもに聞かれたら答えに困るこの素朴な疑問に、日本の研究チームが分子レベルから答えを出してくれました。岡山大学が解明した「止まらないスイッチ」の物語をご紹介します。
※動画版はこちら
そもそも生き物の色は何で決まる?
動物や鳥の体の色を作っているのはメラニンという色素です。日焼けで肌が黒くなるのもメラニンの働き。メラニンには大きく2種類あります。
- ユーメラニン:黒や褐色を作る色素
- フェオメラニン:赤褐色や黄色を作る色素
鳥や動物の体の色は、この2つのどちらをどれだけ作るか、というバランスで決まります。
“色の切り替えスイッチ” MC1R
そのバランスを決めているのが、MC1Rという、メラニンを作る細胞の表面にある受容体です。いわば「色の切り替えスイッチ」。オンになると黒いユーメラニンが作られ、別の物質がやってきてオフにすると赤褐色のフェオメラニンが作られます。通常はホルモン刺激があったときだけ一時的にオンになり、しばらくすると元のオフに戻る——メリハリのある働き方が、ふつうの動物の色の作り方です。
カラスのMC1Rは”止まらないスイッチ”だった
岡山大学の竹内栄教授・相澤清香准教授らの研究チームは、日本の街でおなじみハシブトガラスのMC1Rを取り出し、培養細胞の中で詳しく調べました。すると——
- ホルモン刺激がなくても、MC1Rは常に活性化したまま
- 本来効くはずのホルモン刺激への反応も弱い
- つまり、スイッチが勝手にずっとオン=「止まらないスイッチ」
このしくみのおかげで、カラスの体の中では黒いユーメラニンが休むことなく作られ続ける。だからこそ、生まれてから死ぬまで頭のてっぺんから尻尾の先まで真っ黒なまま——「カラスは黒い」という当たり前の事実の裏には、こんな仕掛けが隠れていた。
1つの変異ではなく、複数の組み合わせ
ニワトリやマウスでも毛が真っ黒になる「止まらないスイッチ」の例は知られていましたが、それらはほとんどがアミノ酸がたった1つ変わるだけで起きていました。ところがカラスの場合は、複数のアミノ酸の変化が重なり合うことで「止まらない状態」が作り出されていたのです。一発勝負ではなく、いくつもの偶然の積み重ねが、あの真っ黒なカラスを作ってきた——生き物の進化がいかに複雑で予測不可能なものか、改めて教えてくれる発見でもあります。
ヒトの肌や髪の色にもつながる
MC1Rは私たち人間の体にもあって、肌の色や髪の色、紫外線から体を守る力にも関係しています。たとえば、欧米の人によく見られる赤毛の人は、MC1Rが少し働きにくいタイプを持っていることが多いと知られています。スイッチが入りにくいから、黒いユーメラニンより赤褐色のフェオメラニンが多めに作られて、髪が赤くなるというわけです。同じMC1Rでも、生き物によって、人によって働きはぜんぜん違う。カラスの黒さを解き明かす研究は、まわりまわって私たち自身の体の色のしくみや、皮膚の病気の理解にもつながる可能性があるのです。
“同じ黒”でも進化の道は違う——収斂進化
世界には、カラス以外にも真っ黒な鳥がたくさんいます。クロウタドリ、オオハシガラス、カラカラなど、それぞれが別々に独自の進化で黒さを手に入れてきました。今回の研究は、その「黒さを生む遺伝子レベルのしくみ」が種類によって少しずつ違うかもしれない、ということを示しています。これを収斂進化と呼びます。同じ「黒」でも、たどってきた進化の道は生き物ごとに違うのかもしれません。
神話の答えから、科学の答えへ
古くから、カラスがなぜ黒いのか、世界中で様々な物語が語られてきました。日本では、太陽の女神アマテラスの使いとされた三本足のカラス、ヤタガラスが有名。海外には、もともと白かったカラスが太陽に近づきすぎて焼かれて黒くなったという伝説もあります。私たちのご先祖さまも、夜空に映える真っ黒なあの姿を見上げて「なんでこの鳥はこんなに黒いんだろう」と考え続けてきた。その問いに、神話ではなく科学の答えが、令和の日本の研究者の手によって出された——長いリレーのバトンが、いまの時代まで届いているような感慨があります。
ハシブトvsハシボソ、あなたの街はどっち?
今回研究の対象となったハシブトガラスは、日本の都市でいちばんよく見かけるカラスです。くちばしが太く、おでこが出っぱった、ちょっといかつい顔つきの大型種。近縁のハシボソガラスはくちばしが細く、おでこも丸い、田舎の田んぼでよく見かけるタイプです。カラスは道具を使ったり、人の顔を見分けたりもできる、鳥の中でずば抜けて賢い存在。次にカラスを見かけたら、ぜひくちばしと顔つきを観察してみてください。
とはいえ、困っているなら対策も
カラスは賢く魅力的な生き物ですが、ゴミ荒らしや畑の被害、ベランダのいたずらなど、暮らしの中で困ることもあります。「カラスを知る」ことと、「上手につきあう」こと、その両方が大事だと思います。最後に、知識を深めたい方と、いま実際にカラスに困っている方、それぞれにおすすめの一つを置いておきます。
カラスのいる暮らしに役立つもの
「カラスは黒い」という当たり前すぎる疑問にも、ちゃんと科学で答えを出せる。そしてその答えの中には、人間の体の色や進化の不思議までつながる大きなヒントが隠れていました。身近な生き物の中にこそ、最先端の科学が眠っているのかもしれませんね。
世界の「気になる動物・科学のニュース」を、これからも分かりやすくお届けします。動画でも詳しく解説していますので、チャンネル登録もぜひお願いします。
↑↑↑ ここまでWordPressに貼り付け ↑↑↑ 【参考・一次情報】岡山大学プレスリリース(2026年4月19日付)/General and Comparative Endocrinology オンライン版(2026年4月6日掲載)/DOI: 10.1016/j.ygcen.2026.114924/著者: Saya Nakano, Yuichi Tashiro, Hibiki Fukuchi, Sayaka Aizawa, Sakae Takeuchi/山陽新聞・山陰中央新報・KSB瀬戸内海放送・時事通信 関連報道

