人類初の「月の基地」は、地上ではなく地下の洞窟に作られるかもしれません。
NASA(アメリカ航空宇宙局)は2026年9月30日、月面基地づくりに向けた3つの新しい科学調査を選んだと発表しました。その一つが、月の表面にぽっかり開いた巨大な穴「マリウス丘の縦孔(たてあな)」の地下に、溶岩が流れた跡のトンネル=溶岩チューブが広がっているかを確かめる計画です。実はこの穴、日本の月探査機「かぐや」が世界で初めて見つけたもの。日本が見つけた穴に、いまアメリカが本格的な調査機器を送り込もうとしています。
ニュース本体:NASAが選んだ3つの月面調査
今回の調査は、NASAの「PRISM(月面科学調査プログラム)」で選ばれたもので、アメリカの民間企業が開発する月着陸機で運ぶ「CLPS(商業月面輸送サービス)」を使って月に届けられます。NASAはこれらを、月の南極付近に人類初の拠点をつくる「ムーンベース(Moon Base)計画」の一環と位置づけています。
選ばれたのは次の3つです。
・LEMS-SP:月の南極に置く無人の観測ステーション。微小な隕石(マイクロメテオロイド)の衝突、ごく薄いガス、月の地震(月震)を長期間記録します。
・GIMLI:マリウス丘の縦孔を調べ、地下の溶岩チューブにつながっているかを確かめます。
・DISCO:太陽の光がほとんど当たらない極寒のくぼみ「マイクロ・コールドトラップ」にある氷を、初めて月面から直接測ります。
注目のGIMLIを率いるのは、アメリカの惑星科学研究所(PSI)のナサニエル・パッツィグ博士です。同研究所の10月5日の発表によると、地中を電波で探る「地中レーダー」、人工的に振動を起こして地下の様子を調べる「地震計」、わずかな重さの違いを測る「重力計」、穴の壁を撮影するカメラを使い、穴の先に空洞があるか、あるならどれくらいの大きさかを推定します。地中レーダーはノルウェー宇宙機関が提供し、機器の開発にはブルーオリジン傘下のハニービー・ロボティクスが参加します。なお、打ち上げや着陸の時期はまだ発表されていません。
独自リサーチ:「かぐや」が開いた月の地下への扉
マリウス丘の縦孔は、2009年に日本の月周回衛星「かぐや(SELENE)」の画像から確認されました。JAXAの2017年の発表では、直径・深さともに約50メートルの穴とされています。
さらに2017年10月、JAXAなどの国際チームは、かぐやに積まれていた電波で地下を探る装置(月レーダサウンダー)のデータを詳しく分析し、縦孔から西へ約50キロメートルにわたって、幅およそ100メートルの空洞が続いている可能性が高いと発表しました。NASAの重力探査機「GRAIL」のデータでも、同じ場所に周りより密度の低い部分があることが分かっており、2つの別々の観測が同じ答えを示した形です。この成果は学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。
月の洞窟の証拠は、ほかにも見つかっています。2024年7月には、イタリアのトレント大学を中心とするチームが、NASAの月探査機LROのレーダーデータを新しい方法で解析し、「静かの海」にある縦孔の下に、人が入れそうな空洞が伸びている証拠を見つけたと学術誌『Nature Astronomy』に発表しました。アポロ11号が着陸した海として知られる場所です。
なぜ洞窟が基地に向いているのでしょうか。月には空気がほとんどないため、宇宙からの放射線や小さな隕石が地表に直接降り注ぎます。また、月面の温度は昼に約110℃、夜に約マイナス170℃と激しく変わります。地下の空洞なら、天井の岩が天然の盾となり、温度も比較的安定していると考えられています。地上に頑丈な建物を造るより、ずっと少ない工事で安全な場所を確保できるかもしれないのです。
日本への影響:「見つけた国」から「使う国」へ
日本の研究者は、かぐやの発見以降、縦孔や地下空洞を直接探査する構想を温めてきました。その一つが、日本神話の女神アメノウズメにちなんで名づけられた「UZUME(ウズメ)計画」です。2017年時点ではJAXAの正式なプロジェクトではありませんでしたが、狙った場所にピンポイントで降りる技術の重要性はこの頃から語られていました。
その技術を実証したのが、2024年1月に月面着陸に成功したJAXAの小型実証機「SLIM(スリム)」です。目標地点から約100メートル以内という高い精度での着陸は、将来、縦孔のふちのような限られた場所に降りるための大きな一歩になりました。
また日本は、アメリカが主導する「アルテミス計画」に参加し、トヨタなどと開発する有人の与圧ローバー(車の中で宇宙服を脱いで過ごせる月面車)を提供する代わりに、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ機会を得ることでアメリカと合意しています。月の地下空洞の調査結果は、日本人が将来活動する場所の安全性にも直結する話なのです。
意見:調査は大賛成。ただし「誰が使うか」のルールづくりも急ぐべき
今回の計画には大いに期待しています。理由は、基地を造る「前」に地下の様子を確かめる、という順番が理にかなっているからです。実際に洞窟が見つかれば、放射線対策や断熱にかかる資材を大きく減らせる可能性があります。洞窟がなかったとしても、穴の壁に露出した溶岩の層から、月の火山活動の歴史を読み解けます。どちらに転んでも科学的な収穫があるのは、良い計画の条件だと思います。
一方で気になるのは、縦孔のように数が限られた「一等地」を、どの国や企業が使うのかというルールがまだあいまいな点です。日本が最初に見つけた穴の調査がアメリカ主導で進むことに、少し複雑な思いを抱く人もいるでしょう。国際協力の中で、日本がこれまでの観測データやSLIMの着陸技術をどう生かし、存在感を示していくのかに注目したいところです。
まとめ
・NASAが月面基地に向けた3つの調査を選び、その一つGIMLIがマリウス丘の縦孔の地下を調べます。
・この縦孔は2009年に日本の「かぐや」が確認し、2017年には地下に約50キロの空洞がある可能性も示されました。
・地下の洞窟は放射線や温度変化から身を守る「天然のシェルター」として期待されています。
・日本はSLIMの精密着陸技術やアルテミス計画への参加を通じて、月の地下探査にも関わっていける立場にあります。
夜空の月を見上げたとき、あの表面の下に巨大なトンネルが眠っているかもしれない——そう想像すると、月が少し違って見えてきませんか。
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https://www.nasa.gov/news-release/nasa-adds-new-science-investigations-for-moon-base/
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261008005247.htm
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261003234013.htm
https://news.mynavi.jp/article/20171020-lava_tubes/
https://news.mynavi.jp/article/20171020-lava_tubes/2/
https://pressroom.unitn.it/comunicato-stampa/existence-lunar-lava-tube-cave-demonstrated
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