宇宙

惑星の卵が激突した跡、ウェッブが21例発見 月誕生のヒントに

  • 公開
  • 読了約6分

約45億年前、生まれたばかりの地球に火星ほどの大きさの天体が激突し、その破片から月ができた——。教科書にも載るこの「ジャイアント・インパクト(巨大衝突)説」とよく似た大事故が、いまも宇宙のあちこちで起きている証拠を、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がまとめてとらえました。

NASAは2026年10月7日、若い恒星のまわりにある特殊なちりの円盤21個を分析した研究を紹介しました。論文は10月1日に天文学誌『The Astrophysical Journal(アストロフィジカル・ジャーナル)』に掲載されています。この記事では、研究の中身と、月の誕生とのつながり、そして10月20日に打ち上げが予定されている日本の火星衛星探査機「MMX」との意外な関係を紹介します。

ニュース本体:21個の「事故現場」を分析

恒星のまわりには、惑星ができる途中や、できた後に残った岩石やちりが円盤状に広がっていることがあります。これを「デブリ円盤(がれきの円盤)」と呼びます。今回調べたのは、その中でも恒星のすぐ近くに、温かいちりが異常に多くたまっている「極端なデブリ円盤」です。若い恒星のうち、この状態が見つかるのはおよそ1%にすぎず、理論で予想されるより少ない珍しい存在です。

アメリカの宇宙科学研究所(Space Science Institute)のケイト・スー氏らのチームは、ウェッブで新たに観測した12個と追加観測した4個、すでに運用を終えたスピッツァー宇宙望遠鏡の過去データ5個、合わせて21個の円盤を、中間赤外線(目に見えない熱の光)の「スペクトル(光を色ごとに分けたもの)」で調べました。その結果、どの円盤も、ちりの粒がふつうより小さいこと、温かいちりの量が非常に多いこと、明るさが不規則に変わることという共通点を持っていました。

さらに、ちりに含まれる鉱物を調べると、円盤は2つのタイプに分かれました。約3分の1は「シリカ(二酸化ケイ素)」が多いタイプで、火星ほどの大きさの天体どうしが岩石を蒸発させるほど激しくぶつかった跡と考えられます。このタイプは誕生から3億年より若い恒星でしか見つかりませんでした。残りの約3分の2はシリカが少ないタイプで、月ほどの大きさの天体がかすめるようにぶつかった、比較的おだやかな衝突の跡とみられています。

ハンガリーのコンコリー天文台のアーグネシュ・コーシュパール氏は「惑星の卵はとても小さいので、ほかに直接調べる方法がない」と述べています。NASAの解説は、激しい衝突の跡が若い恒星に集中していることを、地球と月が太陽の誕生から約1億年後にできたと考えられていることと並べて紹介しています。地球のような岩石惑星は、生まれてから数億年のうちに、こうした衝突を繰り返して完成していくと考えられているのです。

独自リサーチ:火星の衛星も「衝突」で生まれた?日本の研究

巨大衝突でできたかもしれない天体は、月だけではありません。火星には「フォボス」と「ダイモス」という2つの小さな衛星があり、その起源は、小惑星が火星の重力につかまった「捕獲説」と、火星に天体がぶつかって飛び散った破片が集まった「巨大衝突説」で、長く議論が続いてきました。

2016年には、東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典氏らを含む国際チームが、火星への巨大衝突で破片の円盤ができ、そこから一時的に大きな衛星が生まれ、それがやがて火星に落ちた後にフォボスとダイモスが残った、というシナリオを『Nature Geoscience』に発表しました。翌2017年には、同研究所の兵頭龍樹氏と玄田氏らが、火星の直径の約3分の1の天体が秒速約6kmで衝突する様子をシミュレーションし、衛星の材料の約半分が火星由来になりうることを示しています。

興味深いのは温度の違いです。東工大の発表によると、火星衛星をつくった衝突の破片は約2,000K(約1,700℃)程度で、ほとんど蒸発しないと見積もられました。一方、地球の月をつくった衝突では約4,000Kに達して物質が蒸発し、当時の情報が混ざって失われたと考えられています。今回ウェッブが見た「岩石が蒸発するほどの衝突」は、まさに月をつくったタイプの激しい衝突に近いものといえます。

日本への影響:MMXが「衝突の証拠」を持ち帰る

この論争に決着をつけようとしているのが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の火星衛星探査計画「MMX」です。探査機はH3ロケット10号機に搭載され、2026年10月20日に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられる予定です(記事作成時点)。

計画では、約1年かけて火星圏に到着し、フォボスに着陸して10g以上の砂を採取します。はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料が約5.4gだったので、その倍近い量です。2031年に地球へ戻る予定で、成功すれば世界初の火星衛星からのサンプルリターンになります。もし巨大衝突説が正しければ、フォボスの砂には火星本体の物質が含まれている可能性があり、火星に着陸しなくても「火星のかけら」を手に入れられるかもしれません。

ウェッブが遠い恒星で見ている「衝突のちり」と、MMXが手に取って調べる「衝突でできたかもしれない衛星の砂」。宇宙の遠くと近くから、同じ謎に迫ろうとしているわけです。

意見:望遠鏡と探査機の「二刀流」に期待

今回の研究の価値は、これまで「数個の珍しい例」だった極端なデブリ円盤を21個そろえ、「衝突の激しさ」と「恒星の年齢」という2つの軸で整理したことにあると考えます。月の誕生のような大事件は、太陽系の中だけを見ていては一度きりの出来事にすぎません。しかし、ほかの恒星系で同じような現場を集められれば、「よくある出来事なのか、まれな幸運なのか」を比べられるようになります。

ただし、年齢が高い円盤はまだ3個しかなく、研究チーム自身も「もっと多くの系を観測して確かめる必要がある」としています。円盤のちりから衝突の様子を推測する方法にも不確かさは残るでしょう。だからこそ、遠くの現場を統計的に調べる望遠鏡と、実物を持ち帰って分析する日本の探査機が、互いの弱点を補い合う関係になると予想します。数年後、MMXの砂の分析結果とウェッブの観測が同じ答えを指したら、それは惑星科学の大きな転換点になるはずです。

まとめ

・ウェッブ宇宙望遠鏡などの観測で、若い恒星のまわりの「極端なデブリ円盤」21個が分析されました。
・約3分の1は火星サイズの天体どうしの激しい衝突、残りは月サイズの天体のおだやかな衝突の跡とみられます。
・火星の衛星フォボスとダイモスも巨大衝突でできた可能性があり、日本の研究者がシミュレーションで示してきました。
・JAXAのMMXは2026年10月20日の打ち上げ予定で、フォボスの砂から衝突説を確かめることを目指します。

夜空に浮かぶ月も、まだ見ぬ遠い惑星も、激しい衝突の歴史を背負っているのかもしれません。来週のMMXの打ち上げにも、ぜひ注目してみてください。

この記事に関連するおすすめ

月はすごい 資源・開発・移住(佐伯和人著)

月の成り立ちから資源、将来の開発までを月探査の研究者が解説した新書です。月を生んだ巨大衝突の話をもっと知りたい方におすすめです。

楽天市場で見る Amazonで見る

天体望遠鏡(初心者向け)

月のクレーターや火星を自分の目で見てみると、宇宙の衝突の歴史がぐっと身近になります。MMXの旅を追いかけながら、火星を観察してみるのも楽しいでしょう。

楽天市場で見る Amazonで見る

【出典・参考】
https://science.nasa.gov/missions/webb/nasas-webb-provides-crash-course-on-planet-shattering-collisions/
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261007042108.htm
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae88fe
https://www.titech.ac.jp/news/2017/039108
https://www.titech.ac.jp/news/2016/035625
https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/14621_mmx
https://sorae.info/space/20260821-mmx.html

この記事へのコメントはまだありません

感想や質問を送る

感想や質問を送る

メールアドレスは公開されません。コメントは確認後に表示されます。

CAPTCHA