地球のすぐ近くを回る小さな小惑星「ベヌー」。NASAの探査機が持ち帰ったその砂を調べたところ、ベヌーは太陽系の「内側」でも「外側」でもなく、その中間で両方の材料が混ざってできた“ハーフ”のような天体だったらしい、という研究が発表されました。しかも、日本の「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウとも、ほぼ同じ「生まれ」を持っていたようです。
研究は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHチューリッヒ)のマリア・シェーンベヒラー教授らの国際チームが、学術誌『サイエンス・アドバンシズ』12巻39号に発表したもので、10月24日に大学の発表として紹介されました。
ニュース本体:鉄・チタン・クロムの「指紋」を調べた
ベヌーは、およそ1.2年で太陽のまわりを1周し、約6年ごとに地球から約30万km(月までの距離より近い距離)まで近づく小惑星です。NASAの探査機オシリス・レックスがその表面の砂や石を集め、約120gの試料が入ったカプセルが2023年9月23日にアメリカ・ユタ州の砂漠に着地しました。シェーンベヒラー教授の研究室は、このうち0.5gを受け取って分析しました。
チームが注目したのは、鉄・チタン・クロムという3つの元素の「同位体」です。同位体とは、同じ元素なのに重さだけが少し違う“兄弟”のような原子のことです。その混ざり具合(同位体比)は、材料が太陽系のどこで生まれたかによって少しずつ違うため、「化学的な指紋」として使えます。
調べた結果、鉄とチタンはベヌーの試料の中にとても均一に広がっていました。そして、ベヌー、リュウグウ、それに「CIコンドライト」と呼ばれる隕石(炭素を多く含み、ほとんど変化していない、とても珍しい原始的な隕石)の3つは、指紋がよく似ていることが分かりました。一方で、ほかの小惑星や隕石のグループ、惑星とははっきり違っていました。つまり、この3つは同じ「宇宙のちりのたまり場」から生まれた仲間だと考えられるのです。
生まれた場所は「氷の境界線」
では、その場所はどこだったのか。チームは、約45億年前、生まれたばかりの太陽を取り巻く円盤の中にあった「水の氷の境界線(スノーライン)」の近くだったと考えています。スノーラインとは、それより外側では水蒸気が凍って氷になる境目のことです。ここでは太陽系の内側と外側からやってきたちりが混ざり合い、氷が「のり」のように小さな粒をくっつけて、大きく育てたとみられます。
カギを握ったのは木星です。木星は太陽の誕生から約100万年以内にできたとされ、その重力が大きな粒の行き来をせき止める「壁」になりました。ただし細かいちりは通り抜けられたため、スノーライン付近では内と外の細かなちりだけが混ざることができた、というのです。これまでベヌーは、彗星と同じように太陽系の外側で、しかも遅い時期にできたと考えられてきました。シェーンベヒラー教授はベヌーを、内側とも外側とも一致しない「ハイブリッド(混ざりもの)」と表現しています。
細かいちりがよく混ざっていたということは、ベヌーの成分が太陽全体の元素の割合に近いかもしれない、ということでもあります。教授は、ベヌーが地球のような岩石惑星の「元の材料」を知るための最良の手がかりになりうると述べています。
独自リサーチ:リュウグウとベヌーは「いとこ」だった?
今回の結果を聞いて、日本の宇宙ファンが思い出すのは「はやぶさ2」でしょう。はやぶさ2は小惑星リュウグウの試料を採取し、2020年12月6日に地球へ届けました。2022年6月には、東京工業大学(当時)の横山哲也教授らが参加した初期分析チームが『サイエンス』誌に、リュウグウの試料は「イヴナ型炭素質隕石(CIコンドライト)」によく似ていると発表しています。
この論文では66種類の元素の量が決められ、リュウグウの試料は、人類が手にしてきた天然の試料の中で最も太陽系の平均組成に近い、とされました。また、リュウグウのもとになった天体の中では、太陽系誕生から約500万年後に、約40℃の水が岩石と反応していたことも分かっています。
つまり、はやぶさ2が「リュウグウはCIコンドライトの仲間」と示し、今回のベヌー研究が「その仲間たちは同じ場所・同じ材料から生まれた」と、生まれ故郷まで絞り込んだ形です。別々の国の探査機が別々の小惑星から持ち帰った砂が、一つの物語につながったことになります。
日本への影響:はやぶさ2の成果が「ものさし」に、次はMMX
日本にとって大きいのは、はやぶさ2のリュウグウ試料が、ほかの天体と比べるための国際的な「ものさし」の一つになっていることです。今回の研究でも、リュウグウはベヌーの正体を見きわめる比較相手として登場しています。
さらに今月、次の一手も始まりました。JAXAの火星衛星探査機「MMX」が、10月20日午前4時41分にH3ロケット10号機で種子島宇宙センターから打ち上げられ、予定の軌道に入りました。火星の衛星フォボスに着陸して表面の物質を持ち帰る計画で、地球への帰還は2031年7月の予定です。シェーンベヒラー教授は、この試料も自分の研究室で分析したいと、利用の申請を考えていると話しています。
意見:「混ざってできた」という発想が面白い
私は、この研究の一番の面白さは、ベヌーを「内側の天体か、外側の天体か」という二択ではなく、「境目で混ざってできた」と考えた点にあると思います。しかもその混ざり方を、木星という巨大な惑星が“ふるい”のように細かいちりだけを通したことで説明しています。小さな小惑星の砂粒から、太陽系全体の成り立ちと木星の役割まで見えてくるのは、試料を実際に持ち帰る「サンプルリターン」ならではです。
一方で、分析した元素は3つで、比べた天体の数もまだ限られています。教授自身も「ほかの小惑星にも同じ指紋があるのか」を次の課題に挙げています。今後、MMXが持ち帰るフォボスの物質を同じ方法で調べれば、火星の衛星の材料が太陽系のどこから来たのかも比べられるかもしれません。日本の探査が、この謎解きの次の章を担う可能性は十分あると考えます。
まとめ
ETHチューリッヒのチームが、NASAが持ち帰った小惑星ベヌーの試料の鉄・チタン・クロムの同位体を調べた結果、ベヌーはリュウグウやCIコンドライトと同じ材料からできていたことが分かりました。生まれた場所は、約45億年前のスノーライン付近で、太陽系の内と外のちりが混ざった“ハーフ”のような天体だったと考えられます。はやぶさ2の成果とつながり、MMXの打ち上げで日本の役割もさらに広がりそうです。
小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦(山根一眞)
リュウグウへの旅と試料採取の舞台裏を追ったノンフィクションです。今回のベヌー研究で比較相手になったリュウグウの試料が、どれほどの苦労で届けられたのかが分かります。
アエンデ隕石(炭素質コンドライト)の標本
ベヌーやリュウグウと同じ「炭素質コンドライト」というグループに入る、実際に地球に落ちてきた隕石の標本です。太陽系ができたころの材料を手に取って感じられます。
楽天市場で見る Amazonで見る【出典・参考】
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261023023734.htm
https://doi.org/10.1126/sciadv.aei9107
https://www.titech.ac.jp/news/2022/064275
https://sorae.info/ssn/20261020-h3f10-mmx.html
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026102000118&g=soc
この記事へのコメントはまだありません
感想や質問を送る