髪の毛の太さの16分の1だけ、鏡を動かす――。たったそれだけの調整で、宇宙望遠鏡の「視力」が予想より約3割も良くなりました。
NASA(アメリカ航空宇宙局)は2026年10月14日、8月30日に打ち上げた「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」の主力カメラの点検結果を発表しました。画像の鮮明さは、打ち上げ前の予測を30%近く上回っていたのです。
ニュース本体:要求を大きく上回った「ゆがみの少なさ」
ローマン宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡と同じ直径2.4メートルの主鏡を持つ、NASAの新しい宇宙望遠鏡です。8月30日にスペースX社の大型ロケット「ファルコンヘビー」でフロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられ、地球から約150万キロメートル離れた観測地点へ向かいながら、機器の点検を進めています。
NASAゴダード宇宙飛行センターのチームは9月、主力の観測装置「広視野装置(ワイド・フィールド・インストルメント)」の電源を入れました。この装置には、付せんほどの大きさの検出器が18枚並び、全体で3億画素という巨大なカメラになっています。
望遠鏡の性能を左右するのが、光の通り道の「ゆがみ」の小ささです。打ち上げ前に決められた基準は、ゆがみの平均的な大きさ(RMS)が約90ナノメートル以内。1ナノメートルは100万分の1ミリメートルで、90ナノメートルは髪の毛の太さの約1000分の1にあたります。ところが調整後の測定値は63ナノメートルで、予測より30%近く良い結果になりました。
決め手になったのが、主鏡の光を受けて送り返す「副鏡」の位置の微調整です。光学技術者のオールデン・ジャーリング氏によると、副鏡を動かしたのは髪の毛の直径の約16分の1。NASAはこれを「エンパイア・ステート・ビルの高さに置きかえると、てっぺんに1セント硬貨を1枚のせるより小さい変化」とたとえています。ジャーリング氏は「ローマンの宇宙の観測画像は、すべて期待以上にくっきりしたものになる」と話しています。
一方、太陽系の外の惑星を直接写すための「コロナグラフ装置」(明るい恒星の光をさえぎって、そばの暗い惑星を見る装置)は、最初の画像が少しピンぼけでしたが、すでに修正されました。今後数週間のうちに、星の光をさえぎる能力を確かめる試験が行われる予定です。
独自リサーチ:ハッブルの「近視」事件と比べると
打ち上げ直後の宇宙望遠鏡にとって、ピント合わせは大きな山場です。それを物語るのが、同じ2.4メートルの鏡を持つハッブル宇宙望遠鏡の苦い経験です。NASAによると、1990年4月24日に打ち上げられたハッブルは、主鏡のふちがわずかに平らすぎるという欠陥を抱えていました。そのずれは許容範囲の10倍。原因は、鏡を磨くときに形を測った検査装置のレンズの位置が1.3ミリずれていたことでした。ハッブルの画像はぼやけ、1993年12月の宇宙飛行士による修理で、いわば「メガネ」にあたる補正装置を取りつけるまで、本来の力を発揮できませんでした。
ローマンのチームは、このような失敗をくり返さないよう、打ち上げ前に地上で徹底した試験を行ってきました。光学システムの責任者マシュー・ボルカー氏は、調整前から望遠鏡の性能が良かったのは、地上での準備のおかげだと説明しています。
ローマンの強みは「視野の広さ」です。NASAによると、広視野装置が一度に見られる範囲はハッブルの100倍以上。ハッブルと同じくらいくっきりした画像で、空の広い範囲を一気に調べられます。計画では、天の川銀河の中心方向で「重力マイクロレンズ」(手前の星の重力がレンズのように後ろの星の光を曲げる現象)を使って1000個以上の太陽系外惑星を見つけ、また数十億年にわたる宇宙の膨張を、約10億個の銀河の光から調べます。最大の目標は、宇宙の膨張を加速させているとされる正体不明の「暗黒エネルギー」に迫ることです。望遠鏡の名前は、NASAの初代天文学部門の責任者で、「ハッブルの母」とも呼ばれる天文学者ナンシー・グレース・ローマンにちなんでいます。
日本への影響:日本が「つくる側」で参加する初の大型宇宙望遠鏡
ローマン宇宙望遠鏡には、日本も深く関わっています。科学技術振興機構(JST)のサイエンスポータルなどによると、JAXA宇宙科学研究所を中心に、大阪大学、アストロバイオロジーセンター、国立天文台、福井工業大学、東京大学の研究者が参加しています。日本はコロナグラフ装置のマスク基板や光学素子を提供し、長野県佐久市にあるJAXAの美笹(みささ)深宇宙探査用地上局で、ローマンが送ってくる大量のデータを受信します。
さらに、国立天文台のすばる望遠鏡(ハワイ)や、大阪大学などが南アフリカで運用するPRIME(プライム)望遠鏡との協調観測も計画されています。日本の研究者はこれまでハッブルやジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のデータで成果を上げてきましたが、大型宇宙望遠鏡の開発や運用に組織として参加するのは今回が初めてとされています。今回の「視力3割増し」は、日本が部品を提供したコロナグラフの観測にとっても追い風になりそうです。
意見:「地味な調整」こそ宇宙開発の主役
このニュースで注目したいのは、華やかな宇宙の写真ではなく、髪の毛の16分の1という「地味な調整」が成果を生んだ点です。ハッブルはたった1.3ミリの検査ミスで3年以上ぼやけた画像を送り続けました。その教訓を生かし、地上での試験を重ねてきたからこそ、打ち上げから2か月足らずで、予定以上の性能を確かめられたのだと考えます。
一方で、まだ点検の途中である点には注意が必要です。コロナグラフの本格的な試験はこれからで、日本の研究者が期待する太陽系外惑星の直接撮像の技術実証が成功するかどうかは、今後の結果を待たなければなりません。また、宇宙望遠鏡は運用が始まってから思わぬ不具合が見つかることもあります。
それでも、ハッブルと同じ大きさの鏡で、100倍以上の広さを一度に見られる望遠鏡が「期待以上の視力」を持っていたことは、天文学にとって大きな朗報です。暗黒エネルギーや、天の川銀河にひそむ惑星たちの姿が、どこまでくっきり見えてくるのか。最初の観測画像の公開が今から楽しみです。
まとめ
NASAのローマン宇宙望遠鏡は、副鏡を髪の毛の約16分の1だけ動かす微調整で、主力カメラの画質が予測より30%近く良くなりました。ハッブルの「近視」の教訓を生かした地上試験の成果ともいえます。日本もJAXAを中心に部品の提供やデータ受信で参加しており、本格的な観測が始まれば、暗黒エネルギーや太陽系外惑星の研究に大きな進展が期待されます。
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https://science.nasa.gov/blogs/roman/2026/10/14/nasa-roman-team-checks-out-main-instrument-sharpens-telescopes-focus/
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261016070630.htm
https://science.nasa.gov/mission/roman-space-telescope/introducing-the-roman-space-telescope
https://science.nasa.gov/mission/hubble/overview/hubbles-mirror-flaw
https://scienceportal.jst.go.jp/stories/20260901_s01/
https://tokyonewsmedia.com/archives/27407
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