今からおよそ7300年前、九州の南の海の底で、日本列島の歴史に残る超巨大噴火が起きました。そのとき、九州に暮らしていた縄文人たちはどうなったのでしょうか。
イギリスのケンブリッジ大学とスウェーデンのルンド大学などの国際チームが、この問いに「日本全体の人口の動き」から答えようとした研究を、2026年10月に学術誌『サイエンス・アドバンシズ』で発表しました。見えてきたのは、「全滅」でも「無事」でもない、意外な姿でした。
ニュース本体:南九州は大打撃、でも北九州の海辺は人が増えた
研究の対象は「鬼界(きかい)アカホヤ噴火」です。鹿児島県の薩摩半島の南の海にほとんど沈んでいる「鬼界カルデラ」(噴火で地面が大きく陥没してできたくぼ地)で起きた噴火で、火砕流(高温の火山灰やガスが猛スピードで流れ下る現象)が海の上を走り、津波や地震、厚い火山灰の降り積もりももたらしました。
ケンブリッジ大学のエンリコ・クレマ氏が分析を率い、ルンド大学のピーター・ジョーダン教授が研究の責任者を務めました。チームは本州・北海道・九州・四国の4つの島を61の六角形の区画に分け、各地の遺跡から得られた「放射性炭素年代」(生き物の遺物に含まれる炭素の性質から年代を測る方法)のデータの多さの変化を、人口の増減の目安として統計モデルで分析しました。噴火の前後750年ずつを比べ、500年や1000年でも確かめています。
その結果、南九州と中九州では噴火後に人口がはっきり減り、地域によっては人がいなくなったとみられることが分かりました。ただし南九州では、噴火の前からすでに人口が減り始めていたこともうかがえました。一方、北九州の海沿いでは、噴火のあとも人口が増え続けていました。本州北部の海沿いの一部にも、同じような傾向が見られました。
さらに意外だったのは、火山から遠く離れた地域です。噴火の前には人口が増えていたのに、噴火のあとは伸びが鈍ったり、減ったりしていました。チームは原因の候補として、一時的な気候の変化や、火山灰の影響、灰をかぶった草を食べたシカやイノシシの歯がすり減ったことなどを挙げていますが、モデルで直接証明されたわけではないとしています。
独自リサーチ:「完新世で世界最大」の噴火と、北へ動いた文化
鬼界アカホヤ噴火の規模については、神戸大学の研究が大きな手がかりを出しています。神戸大学海洋底探査センターのチームは海底の調査をもとに、2024年2月、この噴火で出た噴出物の総量が332〜457立方キロメートル以上にのぼると発表しました。これは「完新世」(約1万1700年前から現在まで)に起きた噴火としては、陸と海底を合わせて世界最大とされています。火砕流は40キロメートル以上を移動し、火山灰は東北地方の一部にまで届きました。各地の地層に残るこの火山灰は「アカホヤ」と呼ばれ、縄文時代の年代を決める目印にもなっています。
今回の研究で興味深いのは、人の移動を示すような考古学の手がかりです。噴火の前に南九州で見られた「玦状耳飾り(けつじょうみみかざり)」という切れ目の入った石の耳飾りが、噴火のすぐあとには北の地域で見つかり、数も増えていきました。また北九州や周辺の島々では、海の大きな魚をとるための石の銛(もり)の先が噴火後まもなく現れ、「曽畑(そばた)式」と呼ばれる新しい土器のスタイルも生まれました。チームは、内陸の人々が、海の環境が比較的早く回復した北の海岸へ移り住み、新しい人とのつながりや暮らし方をつくった可能性があると考えています。ただし、これらはさらに確かめる必要がある「解釈」だとしています。
クレマ氏は「災害は大きな犠牲をもたらしたが、生き残った人々は移動し、新しい社会関係を築き、新しい経済のかたちを生み出した」と語っています。論文は、九州の縄文社会は完全に「崩壊」したのでも、単に「生き延びた」のでもなかったと結論づけています。
日本への影響:鬼界カルデラは今も活動している
この研究は、遠い昔の話で終わりません。鬼界カルデラは今も活動を続ける火山です。神戸大学は2018年、カルデラの海底に体積32立方キロメートルを超える巨大な「溶岩ドーム」(ねばり気の強い溶岩が盛り上がってできた丘)があることを確認したと発表しました。7300年前の噴火のあとにできたもので、その地下に再び大量のマグマがたまっている可能性があるとしています。同じ発表では、日本列島で今後100年の間に巨大カルデラ噴火が起きる確率はおよそ1%とも紹介されています。
1%と聞くと小さく感じますが、ひとたび起きれば被害は日本全体に及びます。今回の研究で、火山から遠い地域でも人口の伸びが止まったという結果は、巨大噴火の影響が「火山の周りだけ」では済まないことを、7300年前の記録が教えてくれているともいえます。
意見:「災害から立ち直る力」を過去から学ぶ
この研究の価値は、巨大噴火を「どれだけ壊したか」だけでなく、「人々がどう立ち直ったか」という視点で調べた点にあると考えます。逃げる先があったこと、移った先で新しい道具や土器、人のつながりが生まれたことは、現代の防災にも通じる話です。被害を受けた地域の外に「受け入れる側」があることが、社会全体が立ち直るカギになるのかもしれません。
一方で、慎重に見るべき点もあります。放射性炭素年代のデータの数は、あくまで人口の「目安」であり、遺跡が多く調べられた地域ほど数が多くなりやすいという偏りがあります。研究チーム自身も、厚い火山灰が遺跡をおおい隠して記録がゆがむ可能性や、データが少ない地域では推定があいまいになることを認めています。「北へ逃げた」という筋書きは魅力的ですが、今後の発掘で確かめられていくべき仮説だと受け止めるのがよいでしょう。
それでも、日本の考古学者が積み重ねてきた膨大な年代データが、海外の研究者との共同研究で新しい物語を生み出したことは、とても心強いことです。7300年前の縄文人の選択から、私たちが学べることはまだたくさんありそうです。
まとめ
約7300年前の鬼界アカホヤ噴火は、完新世で世界最大とされる超巨大噴火でした。最新の研究では、南九州が大きな打撃を受けた一方で、北九州の海辺では人口が増え続け、遠く離れた地域では伸びが止まっていたことが分かりました。縄文人は「全滅」でも「無事」でもなく、移動し、つながりを結び直して生き抜いた可能性があります。今も活動を続ける鬼界カルデラとともに、これからの研究に注目です。
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鬼界カルデラの調査にも関わったマグマ学者が、日本の巨大カルデラ噴火のしくみと危険性を解説した本です。記事で紹介した「100年で1%」という確率の意味を考えるのに役立ちます。
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1万年以上続いた縄文時代を、最新の研究をもとに通して描いた一冊です。アカホヤ噴火の前後で、縄文人の暮らしがどう変わっていったのかを広い視野で確かめられます。
楽天市場で見る Amazonで見る【出典・参考】
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261017230023.htm
https://www.thebrighterside.news/post/ancient-volcanic-eruption-brought-population-collapse-and-coastal-growth-to-japan/
https://www.iflscience.com/7300-years-ago-an-apocalyptic-volcanic-eruption-almost-annihilated-japans-hunter-gatherers-yet-somehow-they-survived-84958
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20240326_n01/
https://www.kobe-u.ac.jp/en/news/article/2018_02_09_01/
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