火星には、小さな「月」が2つあります。その片方から砂を持ち帰る、世界で誰もやったことのない挑戦が、いよいよ日本から始まります。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の火星衛星探査機「MMX」が、2026年10月20日午前4時41分ごろ、鹿児島県の種子島宇宙センターからH3ロケット10号機で打ち上げられる予定です(この記事の作成時点)。10月15日にはNASAも、この探査に提供する装置や協力内容を発表し、国際的な注目が高まっています。
ニュース本体:フォボスの砂を2031年に地球へ
MMXは「Martian Moons eXploration(火星衛星探査)」の略です。目的は、火星の2つの衛星フォボスとダイモスを調べ、フォボスの表面から砂や石(試料)を採って地球に持ち帰ることです。成功すれば、火星のまわりの天体から試料を持ち帰る世界初の例になります。
NASAの発表によると、MMXは2027年8月に火星のまわりに到着し、2つの衛星の観測を始めます。フォボスでの試料採取は早くても2028年12月以降で、地球への帰還は2031年の予定です。国内の報道によれば、フォボスには最大2回着陸し、10グラム以上の試料を採る計画です。探査機は「往路」「探査」「復路」の3つのモジュール(部品のまとまり)からなり、帰りは復路モジュールだけが地球へ向かいます。
NASAは2つの装置を提供します。1つは「MEGANE(メガネ)」という観測装置で、フォボスの表面から出るガンマ線や中性子(目に見えない放射線の一種)を測り、どんな元素でできているかを調べます。もう1つは着陸脚に取り付けた「空気圧式サンプラー」で、高圧の窒素ガスを吹き付けて表面の砂を舞い上げ、回収します。JAXAの「コアサンプラー」が少し深い場所の試料を掘り取るのと組み合わせて、確実に試料を手に入れるねらいです。NASAは持ち帰った試料の約15%を受け取り、ヒューストンの施設で保管する予定です。
ヨーロッパからは、フランスのCNESとドイツのDLRが共同開発した小型探査車「IDEFIX(イデフィックス)」が参加します。重さは約25キログラムで、DLRは「飲み物のケースほどの大きさ」と説明しています。探査機本体の着陸に先立ってフォボス上空約40メートルから落とされ、自分で姿勢を立て直して約100日間、地面の性質を調べます。
独自リサーチ:フォボスは「捕まった小惑星」か「火星のかけら」か
フォボスとダイモスは、1877年にアメリカの天文学者アサフ・ホールが発見しました。名前は、ギリシャ神話の戦いの神アレスに付き従う兄弟に由来します。フォボスは平均直径約22キロメートルのいびつな形で、火星の表面から約6000キロメートルという、とても近い距離を回っています。重力は地球の1000分の1にも満たないため、着陸といっても「そっと触れる」ような繊細な操作が求められます。
この衛星の生まれ方は、長年の謎です。外からやってきた小惑星が火星の重力に捕まったという説と、火星に巨大な天体がぶつかり、飛び散った破片が集まってできたという説があります。NASAのトム・スタットラー氏は「フォボスとダイモスは、火星への巨大衝突の名残かもしれない」と述べ、その答えは、地球のような内側の惑星がいつ水や有機物を手に入れたのかを知る手がかりにもなると説明しています。実物を地球の実験室で詳しく分析できれば、どちらの説が正しいのか決着がつく可能性があります。
実はMMXは、もっと早く旅立つはずでした。当初は2024年9月の打ち上げを目指していましたが、2023年3月にH3ロケットの試験機1号機が打ち上げに失敗。JAXAは新型ロケットの信頼性を確かめることを優先し、打ち上げを2026年度に延期しました。火星へ向かいやすい時期は約2年ごとにしか来ないため、延期は2年単位になります。今回の打ち上げ予備期間は11月7日までと発表されています。
日本への影響:「はやぶさ」の技術で火星圏へ
MMXは、JAXAにとって「はやぶさ」「はやぶさ2」に続く3つ目のサンプルリターン(試料を持ち帰る)ミッションです。はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料は約5.4グラムでした。MMXが目標とする10グラム以上は、その倍近くになります。持ち帰ったカプセルは、はやぶさと同じくオーストラリアに着地する計画です。
日本と火星には、苦い歴史もあります。1998年に打ち上げられた日本初の火星探査機「のぞみ」は、燃料系のトラブルや太陽フレアによる電源の故障が重なり、2003年12月に火星を回る軌道に入ることを断念しました。MMXは、日本にとって火星へのリベンジともいえる挑戦なのです。
私たちが映像で楽しめる工夫もあります。MMXには、NHKとJAXAが共同開発した8Kカメラと4Kカメラが載っています。火星と地球の間は通信の速さに限りがあるため、約10秒に1回撮った静止画を地球に送り、つなぎ合わせてなめらかな映像にするそうです。火星やフォボスの超高精細な姿が、テレビで見られる日が来るかもしれません。
意見:成功の鍵は「打ち上げ」より「着陸」
今回のミッションで最も注目すべきは、打ち上げそのものよりも、2028年以降のフォボスへの着陸だと考えます。重力が極めて弱く、表面の様子もまだ詳しく分かっていない天体に、大きな探査機が着陸して離陸するのは、はやぶさ2のタッチダウン以上に難しい挑戦です。先にIDEFIXを降ろして地面を調べる作戦は、そのリスクを下げるための賢い工夫といえます。
一方で、帰還までの道のりは約5年と長く、その間に機器の故障や想定外のトラブルが起きる可能性もあります。のぞみの経験が示すように、深宇宙の探査は打ち上げ後こそが本番です。また、試料は日米欧で分け合う計画で、日本が主導権を保ちながら国際協力を進められるかも問われます。
それでも、火星の衛星の「実物」が手に入れば、火星の成り立ちや地球の水の起源まで、教科書を書き換える発見につながる可能性があります。小惑星探査で世界をリードしてきた日本が、次の舞台を火星圏に広げる意味は大きいはずです。
まとめ
JAXAの火星衛星探査機MMXが、2026年10月20日早朝にH3ロケットで打ち上げられる予定です。2027年に火星圏へ到着し、フォボスから10グラム以上の試料を採って、2031年に地球へ持ち帰る計画です。NASAやヨーロッパも加わった、日本主導の大航海の行方に注目しましょう。
はやぶさ2 最強ミッションの真実(津田雄一著/NHK出版新書)
はやぶさ2のプロジェクトマネージャーが、リュウグウ探査の舞台裏を語った本です。MMXにもつながる日本のサンプルリターン技術の積み重ねがよく分かります。
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楽天市場で見る Amazonで見る【出典・参考】
https://science.nasa.gov/directorates/smd/planetary-science-division/nasa-to-help-unlock-mysteries-of-mars-moons-in-upcoming-mission/
https://spacepolicyonline.com/news/jaxas-mmx-mars-mission-readies-for-launch-with-two-nasa-instruments/
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260820-4842835/
https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/14621_mmx
https://www.dlr.de/en/latest/news/2026/off-to-the-moons-of-mars-mmx-mission-and-idefix-rover-ready-for-launch
https://space.com/japan-delays-mmx-mars-mission-rocket-problems
https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1589985.html
https://spaceflightnow.com/mars/nozomi/031209abandon.html
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