恐竜が地上を歩き回っていた1億6500万年前、川や湖ではカモノハシほどの大きさの毛むくじゃらの動物が泳ぎ回り、魚を追いかけていました。しかもその動物は、私たち哺乳類につながる「飲み込み方」をすでに身につけていたようです。
ドイツのボン大学、アメリカのシカゴ大学、中国の研究機関などの研究者からなるの国際チームが、ジュラ紀の新種化石「メガカウダ・スンゲイ」を科学誌「ネイチャー」に発表しました。論文は2026年10月7日にオンライン公開され、10月中旬にかけて大学の発表が各国で紹介されています。
ニュース本体:ジュラ紀最大級の「哺乳類のご先祖の親戚」
メガカウダは、中国・内モンゴル自治区の夏営子(シアインズ)で見つかり、遼寧古生物博物館に収められた化石です。名前は「大きな尾」という意味の言葉と、同博物館の名誉館長・孫革(スン・ゴー)教授への敬意を組み合わせたものです。
分類は「ドコドン類」。これは、現在の哺乳類にとても近いものの、哺乳類そのものではない「哺乳形類(ほにゅうけいるい)」と呼ばれるグループの一つで、すでに絶滅しています。
体長は鼻先から尾の先までおよそ50センチ、体重は約2キロ。現代のカモノハシくらいの大きさです。当時の哺乳類の仲間はわずか数グラムの小さなものが多かったため、ボン大学のトーマス・マーティン教授は「ジュラ紀の哺乳形類で最大」と説明しています。
CTスキャンで化石を立体的に復元したところ、前足で水をかき、平たく幅の広い尾を波打たせて進み、後ろ足でかじを取って泳いでいたと考えられることが分かりました。歯の先は後ろ向きに曲がっていて、ぬるぬるした獲物をしっかりつかむのに向いています。魚やサンショウウオ、小さな無脊椎動物を食べていたとみられています。マーティン教授は「哺乳類の仲間が水中で暮らしていた最も古い証拠だ」と述べています。
最大の発見は「のど」にあった
研究チームがもっとも重要だと考えているのは、泳ぎ方よりも「のど」のつくりです。メガカウダの化石には、のどの奥(咽頭)や、舌やのどを支える「舌骨(ぜっこつ)」がとても良い状態で残っていました。その配置は、今の有袋類や有胎盤類のものとよく似ていたのです。
ワニのように軟口蓋(なんこうがい:口の奥の、口と鼻の通り道を分ける柔らかい部分)を持たない動物は、重力を利用して食べ物を飲み込みます。一方、哺乳類は複雑な舌骨のおかげで、重力に逆らってでも飲み込むことができ、息をしながら乳を吸うこともできます。研究チームは、こうした「哺乳類らしい飲み込み・飲み方・乳の吸い方」のための体のしくみが、現代の哺乳類が現れるよりずっと前から備わっていたと結論づけました。
独自リサーチ:「泳ぐご先祖」の記録が次々と更新
実は、泳ぐドコドン類が見つかったのは今回が初めてではありません。2006年には、同じ内モンゴルの地層から「カストロカウダ・ルトラシミリス」が科学誌「サイエンス」で報告されています。約1億5900万〜1億6400万年前の動物で、ビーバーのような平たい尾と水かきを持ち、魚を食べていたと考えられました。保存された長さは42.5センチ、推定体重は約0.5〜0.8キロで、当時「ジュラ紀最大の哺乳形類」「最古の水生の哺乳形類」とされた存在です。
今回のメガカウダは、約1億6500万年前とカストロカウダと同じかやや古く、体重も2キロほどと上回ります。つまり、カストロカウダが持っていた「最大」「最古の泳ぎ手」という2つの肩書きを、まとめて塗り替えた可能性があるのです。
さらに同じ2026年の秋には、中国・遼寧省の約1億2000万年前(白亜紀前期)の地層から、カモノハシのように泳いだとみられる別の初期哺乳類「ドンゴコノドン・プラティカウダ」も科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に報告されました。歯が3世代も生え替わっていた跡が見つかったことでも話題になっています。「恐竜の時代の哺乳類は、地面をこそこそ走る小さなネズミのような動物ばかりだった」というかつてのイメージは、ここ20年ほどで大きく変わってきたといえます。
日本への影響:日本の地層にも眠る小さな哺乳類
日本でも、恐竜時代の哺乳類の化石は見つかっています。兵庫県丹波篠山市の篠山層群(約1億1000万年前、白亜紀前期)からは、2013年に新属新種の哺乳類「ササヤマミロス・カワイイ」が報告されました。同じ地層からは、恐竜「丹波竜」や小型の角竜の化石も見つかっています。
中国の化石は全身の骨格や毛のあとまで残っていることが多い一方、日本の化石はあごや歯など一部だけのことがほとんどです。それでも、今回のように「全身がわかる化石」で得られた知識があれば、日本で見つかる歯やあごのかけらからも、その動物の暮らしぶりをより深く推理できるようになります。中国の発見は、日本の化石研究にとっても大切な「ものさし」になるのです。
意見:「のど」に注目した視点がおもしろい
今回の研究でおもしろいと感じたのは、「泳ぐ」という目立つ特徴よりも、「飲み込む」という地味なしくみに光を当てた点です。赤ちゃんが乳を吸いながら息ができるのは当たり前のように思えますが、それが1億6500万年以上前から準備されていたと考えると、私たちの体の歴史の長さに驚かされます。
一方で、「最古」「最大」といった言葉には注意も必要だと考えます。化石は偶然残ったものしか見つからないため、今後さらに古い泳ぐ仲間が見つかる可能性は十分にあります。また、軟口蓋そのものは化石に残りにくく、舌骨などの骨から推定している部分もあるはずです。今後、ほかの化石との比較で、この結論がどこまで確かめられるかに注目したいと思います。
まとめ
・約1億6500万年前のジュラ紀に、カモノハシほどの大きさの哺乳類の親戚「メガカウダ・スンゲイ」が水辺で暮らしていました。
・体長約50センチ、体重約2キロで、ジュラ紀の哺乳形類では最大とされています。
・のどの骨のつくりから、哺乳類らしい「飲み込み」のしくみがすでにあったと考えられます。
・2006年のカストロカウダ、2026年のドンゴコノドンなど、恐竜時代の「泳ぐ哺乳類」の発見が続いています。
恐竜の陰でひっそり暮らしていたと思われていた私たちのご先祖の仲間は、実は思った以上に多彩でたくましい存在だったようです。
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小学館の図鑑NEO 大むかしの生物
恐竜だけでなく、大昔の哺乳類の仲間など古生物をたくさん収めた図鑑です。メガカウダが生きていた時代の生き物を親子で調べるのにおすすめです。
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https://www.eurekalert.org/news-releases/1146635
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261012185005.htm
https://www.sci.news/paleontology/megacauda-sungei-15117.html
https://doi.org/10.1038/s41586-026-11107-0
https://en.wikipedia.org/wiki/Castorocauda
https://www.sci.news/paleontology/dongoconodon-platycauda-15104.html
https://hitohaku.jp/research/h-research/20240903_explanation.pdf
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