猫がマタタビにゴロゴロするあの愛らしい姿、見たことがありますよね。実はあれと同じ反応を、海外の猫たちは「キャットニップ」というハーブで見せます。では、もし猫の前にマタタビとキャットニップを両方そろえて自由に選ばせたら、猫はどちらを選ぶでしょうか。岩手大学と名古屋大学の最新研究が、その答えを衝撃的な形で明らかにしました。結論から言うと、猫は圧倒的にマタタビ派。しかも興奮させる成分の量はキャットニップのほうが170倍も多いのに、猫は完全に無視したのです。
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マタタビとキャットニップ、似て非なる2つの植物
マタタビはマタタビ科の落葉性つる植物で、日本・中国・朝鮮半島などに広く生えています。学名は Actinidia polygama。山に入ると、6〜7月ごろに葉の表面が緑から白へと変色する不思議な見た目で見つけられます。
一方のキャットニップはシソ科のハーブの一種で、日本では「イヌハッカ」とも呼ばれます。欧米で広く栽培され、「猫が大好きな葉っぱ」として古くから親しまれてきました。
猫が見せる、決まった4つの反応
- 葉っぱをなめる
- かむ
- 顔や頭をこすりつける
- 葉っぱの上でゴロゴロと転がる
この一連の動きを10分ほど続けたあと、数時間はまったく興味を示さなくなる——これが、猫飼いさんならご存じのあの「マタタビ反応」です。
2026年5月、岩手大・名大が出した「公正な答え」
2026年5月12日、岩手大学(宮崎雅雄教授ら)と名古屋大学(西川俊夫教授ら)の共同研究グループが、化学生態学の国際学術誌 Journal of Chemical Ecology に衝撃的な研究結果を発表しました。研究のキモは、猫が自由に好きな方を選べるフェアな状況で比較した点にあります。
実験①:屋内・純血種22匹
海外由来の9品種を含む合計22匹の純血種を集め、マタタビとキャットニップを同時に部屋に置いて反応を観察。結果は——
- マタタビにだけ反応した猫:15匹
- キャットニップだけを選んだ猫:3匹
- 残りはどちらにも反応せず、あるいは両方に少しずつ
実験②:屋外・地域猫6匹を10晩
- マタタビへの擦りつけ・転がり反応:合計21回
- キャットニップへの反応:0回(完全に無視)
“成分は170倍多い”のに、なぜ完敗したのか
「単純にマタタビの方が成分が強いのでは?」と思いきや、化学分析の結果はまったく逆でした。マタタビで猫を興奮させる主成分はネペタラクトール。キャットニップで猫を興奮させる主成分はネペタラクトンと、よく似た別の物質です。そして両植物の葉に含まれる有効成分の量を比べると、キャットニップのほうが約170倍も多いのです。
化学的に強いはずのキャットニップを、猫は完全に無視した。猫は「強い匂い」だけに惹かれているわけではなく、もっと別の何かを感じ取ってマタタビを選んでいる。
それが具体的に何なのかは、まだ完全には分かっていません。でもこの研究は、猫の好みを解き明かす大切な一歩になりました。
マタタビは”嗜好品”であり”虫よけ”でもあった
宮崎教授たちのグループは2022年に、もう一つ大事なことを明らかにしています。猫がマタタビをなめたりかんだりするのは、ただ気持ちよくなるためだけでなく、マタタビの成分を体になすりつけて蚊などの虫を遠ざける防虫効果を高めているらしい、ということ。つまり猫にとってマタタビは、気分が良くなる嗜好品であると同時に、虫よけスプレーでもあったのです。
さらにさかのぼって2021年、同じグループは「マタタビ反応の主役は、それまで知られていたマタタビラクトンではなく、ネペタラクトールという物質だ」という、教科書を書きかえる発見も発表しています。1950年代に大阪市立大のチームが見つけた「マタタビラクトン類」が中心、という70年来の常識を更新したわけです。今回の「キャットニップより圧倒的にマタタビ派」という結論は、その長い研究の積み重ねの先に出てきた、自然な次の一歩なのです。
おうちの猫との暮らしに、活かせるヒント
- 葉を傷つけると有効成分の組成が変わり、猫は強く反応する。市販のマタタビ粉末・スティックも、軽くもんでから与えると反応が良くなる可能性あり
- マタタビ反応はおよそ10分で落ち着き、その後数時間はクールダウン
- 一度に長く与えすぎず、量と頻度を守って楽しむのが安全
日本の猫、世界の猫
日本のペットフード協会の調査では、国内で飼われている猫はおよそ883万匹。犬の飼育数を上回り、今では日本でいちばん飼われている家庭の動物です。今回の研究は、その日本の猫たちが日々遊んでいるマタタビが、海外品種を含む世界の猫を引き寄せる魅力を持っている——日本産植物の底力を示したともいえます。岩手大からはすでに、マタタビの葉から有効成分を濃縮したスプレーも商品化されています。
「強さ」だけで人気が決まるわけではないこと。そして日本のマタタビが、世界の猫にとっても特別な存在かもしれないこと。今夜、家の猫を眺めながら、そんなことをちょっと考えてみるのも楽しいかもしれません。
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